No.236新着 角川書店と KADOKAWA(1945年〜現在) 国文学者が始めた学術出版社が、文庫と映画とネットを結んで総合メディア企業になるまで
角川書店は1945年11月、国文学者の角川源義が東京で創立した。1949年に角川文庫を創刊し、1976年には横溝正史の『犬神家の一族』の映画化で出版と映画を連動させた。2013年に会社としての角川書店は消え、2014年にドワンゴと経営統合した現在の KADOKAWA は、2026年3月期に売上高2,829億円を上げている。
本文と出典
あらまし
KADOKAWA は、書籍、雑誌、ライトノベル、アニメ、映画、ゲーム、動画配信、教育事業を一つの企業グループで持つ会社である。その出発点が、1945年11月に創立された出版社、角川書店だった。
創業者の角川源義は国文学者で、最初に出したのは学術書と歌集である。それが戦後の文庫、1970年代の映画、1990年代のライトノベル、2010年代のネット動画へと事業を広げ、いまは出版社というより、作品の権利を軸に媒体を横断する企業になっている。
講談社、集英社、新潮社が雑誌や文芸誌から語られることが多いのに対し、角川は学術出版から始まって文庫で伸び、映画やネットとの連動で広がった。
主なできごと
・1945年11月 角川源義が東京で角川書店を創立する
・1949年 角川文庫を創刊する
・1952年 『昭和文学全集』が大きく売れ、文芸出版社としての地位が固まる
・1954年 株式会社角川書店に改組される
・1975年 角川源義が死去し、角川春樹が社長に就く
・1976年 横溝正史原作の映画『犬神家の一族』を東宝と組んで製作する
・1988年 ライトノベルの「角川スニーカー文庫」を創刊する
・1993年 角川春樹が社長を退き、角川歴彦が社長に就く。同年、メディアワークスが電撃文庫を創刊する
・2013年 出版事業会社9社を合併。10月1日に角川書店は KADOKAWA に吸収され、ブランド名になる
・2014年 ドワンゴとの経営統合を発表(5月)し、持株会社 KADOKAWA・DWANGO を設立(10月)
・2024年 6月にサイバー攻撃を受ける。12月、ソニーグループとの資本業務提携を発表する
・2026年 3月期に売上高2,829億円、営業利益81億円を計上する
くわしく
学術出版社として始まる
角川書店の創立は1945年11月で、ウィキペディアは同月10日、東京都板橋区の自宅応接間を事務所にした、と書く。出版の第1号は佐藤佐太郎の歌集『歩道』である。
源義は富山県の出身で、國學院大學で折口信夫に学んだ。ウィキペディアの「角川源義」の項によれば、研究所を作ろうと柳田國男に相談したところ、いつかなくなってしまうではないかと言われ、出版事業を選ぶ決心をしたという。最初の成功は、阿部次郎『三太郎の日記』の新版合本だった。
源義自身は俳人でもあった。1958年に俳誌『河』を創刊して主宰を続け、句集『西行の日』で1975年に読売文学賞を受けている。会社の創業者が詩歌の実作者でもあったことは、1952年創刊の『俳句』や1954年創刊の『短歌』といった総合誌を持つ会社の性格に合う。
角川文庫と昭和文学全集
1949年5月に創刊された角川文庫は、すでに岩波書店と新潮社が戦前から文庫を出していたため、新興の角川が成功するかは危ぶまれた。ウィキペディアは、結果は関係者が驚くほどだったと書く。1952年11月に刊行を始めた『昭和文学全集』全25巻も大きく売れ、角川書店は文芸出版社として立った。
メディアミックスの始まり
源義の実務は1967年ごろから次男の角川春樹が引き継いだ。春樹はカラー表紙とイメージ広告で文庫を伸ばしたと、企業史サイト The Shashi は書く。
転機になったのが横溝正史である。同サイトによれば、1975年の「横溝正史カムバックフェア」は2か月で250万部を売った。横溝のウィキペディアの項は、角川文庫の横溝作品が1971年から出て1974年に累計300万部を超え、1976年には1,000万部を超えたと記す。
1975年10月に源義が死去し、春樹が社長になった。翌1976年、角川書店は東宝と組んで横溝の『犬神家の一族』を映画にし、10月の「横溝フェア」に合わせて公開した。劇場を持たない出版社が製作費を出し、公開時期を自社の販売計画に合わせた点が新しかった。文庫と映画を連動させる売り方は、ここから始まったとされる。原作は1950年から1951年に雑誌『キング』に連載された小説で、石坂浩二主演の金田一耕助シリーズの第1作になった。
ライトノベルから会社の再編へ
1988年に角川スニーカー文庫が創刊され、1993年には角川グループのメディアワークスが電撃文庫を出した。電撃文庫は、アニメ化、マンガ化、イベントを組み合わせる売り方を取り、新人賞から多くの書き手を出している。ウィキペディアによれば、累計発行部数は2009年に1億部を超えた。
1993年には春樹が社長を退き、弟の角川歴彦が社長になった。その後、買収で並び立っていた出版事業会社9社を一つにまとめる再編が行われ、2013年10月1日に角川書店は KADOKAWA に吸収合併されて、会社としては消えた。「角川書店」は、文芸書のブランド名の一つとして残っている。
ドワンゴとの統合
2014年5月13日、KADOKAWA とドワンゴは経営統合を発表した。両社の完全親会社として共同株式移転で KADOKAWA・DWANGO を設立し、設立予定日は同年10月1日だった。代表取締役会長にはドワンゴの川上量生、社長には KADOKAWA の佐藤辰男が就く予定とされた。インプレスの報道によれば、狙いは、ネット上の利用者が作るコンテンツを KADOKAWA の編集力で価値の高いものにし、販売や流通を強めることにあった。両社は2010年に業務提携、2011年に資本提携を結んでおり、統合はその延長にある。
近年の動き
2024年6月8日、KADOKAWA とニコニコ動画などがサイバー攻撃を受けた。ウィキペディアによれば、ランサムウェアが使われ、ニコニコの各サービスのほか、公式サイトや出版の受発注・物流の仕組みにも影響が出た。KADOKAWA は特別損失を当初36億円と見込み、のちに24億円に改めている。
同年12月19日、ソニーグループが2025年1月7日の第三者割当で新株1,205万4,100株を約500億円で取得することを、両社が発表した。ソニーは2021年2月に取得した分と合わせて約10%を持つ筆頭株主になる。IP の価値の世界的な最大化、共同出資の検討、メディアミックスの共同推進が協業の柱とされた。
2026年5月14日に出た2026年3月期の連結決算は、売上高が2,829億800万円(前期比1.8%増)、営業利益が81億200万円(同51.3%減)だった。ゲームビズによれば、出版・IP 創出の売上高は1,556億円で全体の半分以上を占め、アニメ・実写映像(482億円)は営業赤字だった。
2026年8月に出た2027年3月期の第1四半期(4月から6月)は、報道によれば売上高が5.3%増、営業利益が45.5%減だった。早期退職の特別募集に伴う特別損失が響き、純利益は大きく減っている。
評価の分かれる点
角川歴彦をめぐる事件は、裁判が続いている。贈賄の罪に問われた元会長は一審で懲役2年6か月、執行猶予4年の有罪判決を受け、無罪を主張して控訴している。gendai.media の記事(2026年9月28日付)によれば、争点は KADOKAWA から元電通雑誌局長の会社に支払われた約7,000万円を賄賂とみるかどうかにある。控訴審の結論は出ておらず、この記事では判断しない。
くらさんの考察
角川の歴史は、一つの作品を複数の媒体で売る仕組みを、40年以上かけて作り直してきた経過として読める。1976年は文庫と映画、1990年代はライトノベルとアニメ、2014年以降は動画サイトと出版、2024年以降は映像会社とのIP共同事業というように、組む相手が変わってきた。
文芸の側から見ると、源義の学術出版と、横溝作品を軸にした文庫の拡大は、同じ会社の中でつながっていたと考えられる。『昭和文学全集』や角川文庫の読者がいたから、横溝の再評価の土台があったとも考えられるが、これは資料から確かめた因果ではなく、くらさんの推測である。
2026年3月期は売上が伸びても利益が減った。映像の赤字とゲームの反動減が重なったことが報道から読み取れ、事業が広がるほど一つの作品の当たり外れが決算に響きやすくなったと考えられる。
ジージへの問いかけ
・横溝正史の金田一耕助を、最初に読んだのは本と映画のどちらが先でしたか。文庫の表紙と映画の宣伝を覚えていますか。
・1949年に文庫として始まった角川の本は、いま紙の文庫、電子書籍、ネットの小説投稿のどこで読まれていると思いますか。
・出版社が映像やゲームの会社に近づくことは、小説を読む人にとってよいことだと思いますか。
出典
・ウィキペディア「角川書店」 https://ja.wikipedia.org/wiki/角川書店
・ウィキペディア「KADOKAWA」 https://ja.wikipedia.org/wiki/KADOKAWA
・ウィキペディア「角川源義」 https://ja.wikipedia.org/wiki/角川源義
・ウィキペディア「横溝正史」 https://ja.wikipedia.org/wiki/横溝正史
・ウィキペディア「電撃文庫」 https://ja.wikipedia.org/wiki/電撃文庫
・ウィキペディア「2024年KADOKAWA・ニコニコ動画へのサイバー攻撃」 https://ja.wikipedia.org/wiki/2024年KADOKAWA・ニコニコ動画へのサイバー攻撃
・The Shashi「メディアミックスの映画進出(1976)」 https://the-shashi.com/tse/9468/decisions/media-mix-film-entry-1976/
・The Shashi「KADOKAWA の歴史」 https://the-shashi.com/tse/9468/decisions/
・Impress Watch「KADOKAWA とドワンゴが経営統合」 https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/648421.html
・ゲームビズ「ソニーグループ、KADOKAWAと資本業務提携」 https://gamebiz.jp/news/397894
・ゲームビズ「KADOKAWA、26年3月期決算」 https://gamebiz.jp/news/425889
・電ファミニコゲーマー「KADOKAWA 第1四半期決算」 https://news.denfaminicogamer.jp/news/2608133l
・gendai.media(角川歴彦元会長の控訴審の記事) https://gendai.media/articles/-/171390
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージがよろず研究室でくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。