No.203新着 青空文庫(1997年〜現在) ボランティアが打ち込み、校正して、無料で開く本棚
青空文庫は1997年に富田倫生ら4人の呼びかけで始まった、著作権の切れた作品をボランティアが入力・校正して無料で公開するインターネット上の図書館である。2026年10月23日時点の収録作品数は17,840。2018年12月30日に著作権の保護期間が死後50年から70年に延びたため、新しく公開できる作家が20年近く現れない状態が続いている。
本文と出典
あらまし
青空文庫は、著作権の切れた作品と、著作権者が許した作品を、だれでも無料で読めるようにしているインターネット上の図書館である。本を一字ずつ打ち込む人、打ち込んだ文字を元の本と突き合わせる人は、すべてボランティアで、青空文庫ではこの人たちを「工作員」と呼ぶ。収録の中心は明治から昭和前期の小説、詩、随筆で、夏目漱石、芥川龍之介、宮沢賢治などが読める。公式トップページの収録作品数は17,840で、うち著作権の切れたものが17,352、著作権の残るものが488である(2026年10月23日に確認)。
主なできごと
・1997年7月7日 富田倫生、野口英司、八巻美恵、らんむろ・さてぃの4人の呼びかけで発足
・1997年9月11日 ホームページを公開。立ち上げ時の収録は5冊
・2007年6月26日 収録6,324作品。ボランティアは約680人(2007年7月時点)
・2011年3月15日 収録1万作品に達する
・2013年8月16日 富田倫生が死去(61歳)。寄付を集める「本の未来基金」ができる
・2015年5月 古くなったサーバーを見直すため「Code for 青空文庫」のアイデアソンを開き、「aozorahack」が生まれる
・2018年10月16日 収録1万5千作品に達する
・2018年12月30日 TPP11の発効にあわせ、改正著作権法で保護期間が死後50年から70年に延びる
・2025年7月7日 次の仕組みで作った「新館」を仮公開
・2026年1月1日 休んでいた校正の新規受付を3年ぶりに期間限定で再開
始まりと富田倫生
きっかけは電子出版の会社ボイジャーにある。ボイジャーで知り合った人たちが、同社の電子本の道具「エキスパンドブック」の出来に惹かれ、日本語の本を入れて読んでみたいと考えたところから青空文庫は始まった。呼びかけ人の一人の野口英司は当時ボイジャーの社員だった。中心にいた富田倫生は1952年広島市生まれの編集者で、1997年3月に電子本の可能性を論じた『本の未来』(アスキー)を出している。青空文庫には代表者がなく、ボランティアの集まりとして運営されてきた。
富田は保護期間の延長に反対する運動を続け、2013年8月16日に61歳で亡くなった。死の直後には『本の未来』が青空文庫で公開された。基金からは、まず500万円が青空文庫の今後のために寄せられた。同じ年の暮れ、青空文庫は運営の担い手が「10人を下回る」と書いている。2015年には、サーバーを扱える技術者がいないまま古い機械を使い続けていることが問題になり、外部の技術者に協力を求める「aozorahack」につながった。
入力と校正の仕組み
作業を始める人は、まず公開中と作業中の作品の一覧で重なりがないかを確かめ、もととなる本(底本)を決めて着手を届け出る。底本は、旧字・旧かなを残したいなら戦前の本や全集、読みやすさを取るなら現代かなづかいの文庫本、というように選ぶ。入力はルビや傍点などを決まった記号で書き込む「青空文庫形式」のテキストで行う。入力者と校正者は別の人にするよう求めており、同じ人の見落としが残らないようにしている。校正の済んだファイルは点検を経て公開される。作品ごとの案内札(図書カード)は、著作権の切れたものを青、残っているものを桃色で分けている。
この手作業の流れには詰まりやすい所がある。2017年の報道では、点検が作業の渋滞点になり、校正を待つ古い作品が約3,000件残っていた。2026年1月の「そらもよう」(青空文庫の公式の便り)によれば、新館の準備に力を割くため、校正の新規受付を長く止めていた。
収録数の伸び方
立ち上げ時の5冊は、10年で6千を超え、2011年3月に1万になった。1万から1万5千までは約7年半かかった。そこから8年近くたった現在の17,840まで増えたのは約2,800である。年あたりにならすと、前の期間はおよそ670、後の期間はおよそ360になり、伸びは半分ほどに落ちている(くらさんの計算)。公式トップページの新着は2026年8月20日付が最後で、8月23日からは作業の受付をする仕組みが障害でメンテナンス中と告知されている。
保護期間の延長が止めたもの
青空文庫の収録は、毎年元日に保護期間の切れた作家の作品をまとめて公開することで増えてきた。2018年元日には28人の作家の28作品を公開している。ところが2018年12月30日、TPP11の発効にあわせた改正著作権法で、保護期間が作者の死後50年から70年に延びた。文化庁の説明では、延長の対象は原則として1968年以降に亡くなった人の作品で、すでに切れた保護は復活させない。このため、公開済みの作品は取り下げずに済んだ。
その代わり、2019年元日に公開する予定だった作家は20年先送りになった。青空文庫は1968年没の13人と1969年没の2人、計15人を挙げ、その中に村岡花子、藤田嗣治、獅子文六、長谷川如是閑がいる。次に新しくパブリックドメイン(だれでも自由に使える状態)に入る作家は、2039年1月1日まで現れない見込みである。2026年元日の便りも、延長から8年がたち、次の「パブリックドメインの日」までの約20年をどう続けるかを課題に挙げている。前の節で見た伸びの鈍りは、この元日の公開がなくなったことと、受付の休止の両方が重なった結果と考えられる。
国立国会図書館との違い
国立国会図書館も古い本をインターネットで読めるようにしている。2022年5月19日には、絶版などで手に入りにくい資料を個人が自宅で読める送信サービスを始めた。対象は約153万点(2022年1月時点)で、日本国内に住む登録利用者が本文の画像を見る形である。2022年12月21日の刷新では、機械で文字を読み取った全文検索の対象が約5万点から約247万点に増えた。
二つは量と作り方が違う。国立国会図書館は本を撮影した画像を大量に出し、検索用の文字は機械で起こしている。青空文庫は数こそ1万8千弱だが、人が打ち込み、別の人が照らし合わせた文字のデータで、利用登録なしにだれでも読め、著作権の切れた作品なら自由に使える。
評価の分かれる点
保護期間の延長には、作家の遺族や権利者の利益を守るという賛成の立場と、昔の作品が読まれる機会を減らすという反対の立場がある。青空文庫は反対の声明や署名を重ねてきた当事者であり、その評価は青空文庫の側の見方であることに注意がいる。また、国立国会図書館の全文検索が広がったいま、人手で文字を起こす青空文庫の役目がどこまで残るかについても、見方は一つにまとまっていない。
くらさんの考察
青空文庫の強みは、文字が人の手で確かめられている点にあると考えられる。画像は元の本の姿をそのまま伝えるが、文字を大きくしたり、読み上げさせたり、別の電子本の形に作り直したりするには、正しい文字のデータが要る。目の疲れやすい読み手にとって、この差は小さくない。一方で、元日の公開が止まり、担い手も限られるなかで、作業の受付を止めながら新館を作る今の状態は、20年の空白をしのぐための建て直しの時期とみることもできる。
ジージへの問いかけ
・ジージは青空文庫で本を読んだことがありますか。紙の文庫と比べて、読みやすさはどう感じますか
・作者の死後70年まで著作権を守ることと、古い作品を自由に読めることと、どちらを重く見ますか
・本を一冊打ち込んで校正するボランティアに、ジージなら参加してみたいと思いますか
出典
・青空文庫 トップページ https://www.aozora.gr.jp/
・青空文庫 そらもよう(2026年の記事を含む) https://www.aozora.gr.jp/soramoyou/soramoyouindex.html
・青空文庫 そらもよう 2018年 https://www.aozora.gr.jp/soramoyou/soramoyou2018.html
・青空文庫 そらもよう 2013年 https://www.aozora.gr.jp/soramoyou/soramoyou2013.html
・青空文庫 作業マニュアル https://www.aozora.gr.jp/aozora-manual/
・ウィキペディア「青空文庫」 https://ja.wikipedia.org/wiki/青空文庫
・ウィキペディア「富田倫生」 https://ja.wikipedia.org/wiki/富田倫生
・artscape 2007年7月のレポート(青空文庫) https://artscape.jp/artscape/artreport/law/070715_01.html
・窓の杜 鷹野凌「青空文庫に生き続ける富田倫生氏の遺志」(2017-11-08) https://forest.watch.impress.co.jp/docs/bookwatch/digipub/1090333.html
・カレントアウェアネス・ポータル「『青空文庫』の呼びかけ人、富田倫生氏が死去」(2013-08-21) https://current.ndl.go.jp/car/24206
・文化庁 TPP11発効に伴う著作権法改正の施行についての解説 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_hokaisei/
・文化庁 著作物等の保護期間の延長に関するQ&A https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_chosakuken/1411890.html
・国立国会図書館 お知らせ(個人向けデジタル化資料送信サービスの開始) https://www.ndl.go.jp/jp/library/news/1237186_1484.html
・カレントアウェアネス・ポータル E2529「個人向けデジタル化資料送信サービスの開始」 https://current.ndl.go.jp/e2529
・カレントアウェアネス・ポータル 国立国会図書館デジタルコレクションのリニューアル(2022年12月) https://current.ndl.go.jp/car/168581
動画
・青空文庫 800人のボランティアと一万冊の電子書籍 1/6(富田倫生)(VJdotbook)https://www.youtube.com/watch?v=GkYY_hbR75U
関連動画
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが文学QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。