第三問新着
ジージ
芥川賞、直木賞以前には、どんな文学賞があったのですか?それとも、その手の文学賞と呼べるものは一切無かったのでしょうか?
2026年10月22日 21:15 の質問
くらさん
ひとことで
ありました。それもたくさん。明治の半ばから、新聞や雑誌が原稿を募って賞金を出す「懸賞小説」が盛んで、のちの有名作家が何人もそこから出ています。もっとさかのぼれば、平安時代の「歌合」は、判定役が和歌の勝ち負けを決める、文学の競い合いそのものでした。芥川賞・直木賞は「日本で最初の文学賞」ではありません。それまでとは選び方の違う賞でした。
平安の歌合 勝ち負けと講評のある競い合い
仕組み歌人を左右の二組に分け、一番ずつ和歌を出して優劣を競います。判者(はんじゃ)が勝ち負けを決め、その理由を「判詞(はんし)」として述べます。
始まり記録に残る最古のものは、885年(仁和元年)ごろの「在民部卿家歌合」とされます。
名高いもの960年(天徳4年)に村上天皇が開いた「天徳内裏歌合」、1192年(建久3年)ごろに九条良経が開いた「六百番歌合」。
のちへの影響判詞はしだいに文学論の性格を帯び、和歌の批評(歌論)につながっていきました。
賞金こそありませんが、「作品を並べ、選ぶ人が理由をつけて優劣を決める」という形は、今の文学賞の選考会と同じです。
江戸の万句合 募集と入選の大衆版
川柳の名のもとになった柄井川柳は、1757年(宝暦7年)に初めて「万句合(まんくあわせ)」を開きました。句を広く募り、選んで発表する催しで、月に3回開かれ、1762年には一度に1万句を超える句が集まったと記録されています。誰でも投句できて、選ばれた句が世に出る。のちの「公募」の先祖のような仕組みです。
明治・大正・昭和初期 新聞と雑誌の懸賞小説
明治に新聞と雑誌が広まると、各社が読者を集めるために、小説の原稿を募集して賞金を出すようになりました。主なものを挙げます。
1893年(明治26年)読売新聞「歴史小説歴史脚本」高山樗牛の「瀧口入道」が二席に入りました。応募は匿名で、入選の発表のあとで名乗り出るのがふつうだったそうです。
・1897年(明治30年)〜1924年(大正13年)『萬朝報』の懸賞小説:週1回の募集で賞金10円(のちに20円)、一時の中断をはさんで合わせて1720回も続きました。入選者には永井荷風、国木田独歩、横光利一、宇野千代、そして**菊池寛**の名があります。
・1904年(明治37年)「大阪朝日創刊25周年記念懸賞長編小説」:大倉桃郎の「琵琶歌」が1等、賞金300円(いまの100万円ほどとされます)。作者は原稿を友人に託して日露戦争に出征していて、受賞を知らなかったそうです。これが「創刊○周年記念」の懸賞の先駆けになりました。
1910年(明治43年)大阪朝日「1万号記念文芸」田村俊子の「あきらめ」が1等。
1919年(大正8年)大阪朝日「創刊40周年記念文芸」吉屋信子が入選。
1925年(大正14年)『文藝春秋』の懸賞小説山本周五郎の「須磨寺附近」。菊池寛の会社も、芥川賞の10年前に懸賞をやっていました。
1926年(大正15年)大阪朝日「大朝短編小説」石川達三、平林たい子が世に出ます。石川達三は、のちに第1回芥川賞を受ける人です。
1929年(昭和4年)『改造』の懸賞評論1等が宮本顕治の「『敗北』の文学」、2等が小林秀雄の「様々なる意匠」。のちに批評の神様と呼ばれる小林秀雄は、懸賞の2等からの出発でした。
では、芥川賞・直木賞の何が新しかったのか
ここからは、くらさんの考えです。
それまでの懸賞は、新聞社や雑誌社が「原稿を募集して、応募作から選ぶ」ものでした。目的は紙面を埋める作品と読者を集めることで、選ぶのも主催した社です。
芥川賞・直木賞は、応募を受け付けません。すでに新聞や雑誌(他社のものも含む)に載った作品の中から、作家たちが選考委員になって選びます。つまり「募集」ではなく「顕彰」、腕前を世に認める賞でした。その上で、亡くなった有名作家の名を冠し、毎年2回続けることで、賞そのものに権威が育つように作られています。
懸賞から多くの作家が出たことを、菊池寛は身をもって知っていました。自分も『萬朝報』の懸賞に入選した一人です。芥川賞は、明治以来の懸賞の伝統を、作家が選ぶ「権威ある賞」へと一段引き上げたもの、と言えそうです。前の問いでお話しした「日本にも権威ある文学賞を」という声は、この懸賞の時代のあとに出てきたものでした。
ジージへの問いかけ
・応募作から選ぶ「懸賞」と、世に出た作品から選ぶ「賞」。新しい書き手が世に出る道として、どちらが公平だと思いますか。
・平安の歌合では、判者の講評(判詞)がのちに歌論として読まれました。今の芥川賞の選評も、何百年かあとには「文学論」として読まれていると思いますか。
出典
・ウィキペディア「歌合」 https://ja.wikipedia.org/wiki/歌合
・ウィキペディア「柄井川柳」 https://ja.wikipedia.org/wiki/柄井川柳
公募ガイド「文学賞別傾向と対策5公募文学賞の歴史」 https://koubo.jp/article/25481
・公募ガイド「文芸公募百年史 VOL.6『萬朝報』懸賞小説」 https://koubo.jp/article/29195
・公募ガイド「文芸公募百年史 VOL.2 大阪朝日創刊25周年記念懸賞長編小説」 https://koubo.jp/article/28381
・ウィキペディア「小林秀雄 (批評家)」 https://ja.wikipedia.org/wiki/小林秀雄_(批評家)
・ウィキペディア「芥川龍之介賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/芥川龍之介賞
問い 2026年10月22日 21:15 答え 2026年10月22日 21:17 ▲ 上へ