No.211新着 第175回芥川賞・直木賞(2026年上半期) 小砂川チト『ゾンビ回収婦』と朝倉かすみ『けんぐゎい』、決選投票で決まった
2026年7月15日の選考会で、第175回芥川賞は小砂川チト『ゾンビ回収婦』、直木賞は朝倉かすみ『けんぐゎい』に決まった。どちらも3回目の候補での受賞で、どちらも5作から2作に絞られた決選投票を経ている。直木賞ではお笑いタレント若林正恭の初小説『青天』が候補になって注目を集めた。
本文と出典
あらまし
芥川賞と直木賞は、1935年に菊池寛が創設した文学賞である。主催は日本文学振興会で、年2回、上半期と下半期に選ばれる。2026年上半期の第175回は、7月15日に東京都内で選考会が開かれ、芥川賞が小砂川チト『ゾンビ回収婦』(「群像」5月号)、直木賞が朝倉かすみ『けんぐゎい』(光文社)に決まった。副賞はどちらも100万円である。
主なできごと
・1935年 芥川賞・直木賞が創設される
・2026年6月11日 第175回芥川賞の候補作5作が発表される
・2026年7月15日 選考会が開かれ、芥川賞・直木賞の受賞作が決まる
・2026年7月15日 辻村深月が直木賞の講評で若林正恭『青天』に触れる
・2026年8月9日 「文藝春秋」9月号の芥川賞選評が、文藝春秋のサイトに載る
二つの賞のちがい
芥川賞は、新聞や雑誌(同人誌を含む)に載った純文学の短編・中編のうち、無名か新進の作家の作品を対象にする。直木賞は、新人から中堅の作家の大衆小説を対象とし、長編や短編集など本になったものが候補になる。ウィキペディアは、直木賞が創設当初は新人向けだったものの、1970年代以降は中堅の受賞が増えたと記している。今回の受賞者の年齢にも、その傾向が見える。
第175回の候補作と選考委員
芥川賞の候補は、小砂川チト『ゾンビ回収婦』、鈴木涼美『悪い血』、仁科斂『丹心(まごころ)』、村司侑『ソリティアおじさんがいた頃』、八木詠美『アンチ・グッドモーニング』の5作。直木賞の候補は、朝倉かすみ『けんぐゎい』、蝉谷めぐ実『見えるか保己一』、凪良ゆう『多類婚姻譚』、原田ひ香『#台所のあるところ』、若林正恭『青天』の5作だった。
芥川賞の選考会は築地の「新喜楽」で開かれ、小川洋子、奥泉光、川上弘美、川上未映子、島田雅彦、平野啓一郎、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一の9委員が出席した。対象は2025年12月から2026年5月末までに出た作品である。直木賞の選考委員は、浅田次郎、角田光代、京極夏彦、桐野夏生、辻村深月、林真理子、三浦しをん、宮部みゆき、米澤穂信の9人とされる。
芥川賞 小砂川チト『ゾンビ回収婦』
小砂川は1990年に盛岡市で生まれ、受賞時は36歳。2022年に「家庭用安心坑夫」で群像新人文学賞を受けてデビューした。芥川賞は3回目の候補での受賞で、記者会見では「胸がいっぱいで、頭が真っ白」と話した。
受賞作は、AIに仕事を奪われて姿を消した夫を追い、主人公がVRゲームの世界に入る話である。主人公はそこで、ゾンビの死骸を片付ける掃除婦として働く。報道によると、選考では、ラテン文学のマジックリアリズムを思わせる描写で、仮想と現実が混ざり合う新しい虚構の世界を作った点が評価された。決選投票に残ったのは、この作品と鈴木涼美『悪い血』の2作である。
直木賞 朝倉かすみ『けんぐゎい』
朝倉は1960年に北海道で生まれ、小樽市出身で札幌市に住む。受賞時は65歳で、直木賞の受賞者としては高齢の部類に入る。2018年に『平場の月』で山本周五郎賞を受けた。これも3回目の候補での受賞である。会見では、デビュー当時から「老婆作家」を目指していたので嬉しい、と話した。
受賞作は江戸時代が舞台で、顔にあばたの残る女性が抑圧に抗い、やがて産科の仕事で自立し、女性たちが支え合う場を築く物語とされる。幻想的な描写も交える。1回目の投票では『けんぐゎい』と蝉谷めぐ実『見えるか保己一』が同点になり、残る3作は受賞圏外となった。2作での決選投票では『けんぐゎい』が満票を得た。選考では賛否が出たとする報道もある。次点の『見えるか保己一』は、江戸の国学者・塙保己一を、評伝ではなく歴史小説として書いた点が評価されたという。
話題になった『青天』
お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭は、初めての小説『青天』(文藝春秋)で直木賞の候補になった。人気タレントの初小説だったため、候補発表の会見には通常より多くの報道陣が集まったと伝えられている。作品は、学生時代に打ち込んだアメリカンフットボールを題材にした青春小説とされる。
講評を担当した辻村深月は、「身体性を伴う文章が魅力」と述べ、計算しすぎない伸びやかさを評価した。一方、舞台を若林が青春を過ごした1990年代の東京にしたことには、いまの読者に届くかという点で賛否があったと明かした。そのうえで、今後の執筆への期待を語っている。『青天』は決選投票には残らなかった。
評価の分かれる点
『けんぐゎい』については、選考に賛否があったという報道がある一方、決選投票は満票だった。どの委員がどこを評価し、どこを疑問としたかは、直木賞の選評本文を確かめられていないため、ここでは書けない。芥川賞の選評は文藝春秋のサイトに載っているが、会員向けの記事で、本文は読めなかった。芥川賞の個々の委員の評価も、確認できた範囲では分からない。
くらさんの考察
今回の二つの受賞作は、どちらも「いまの現実の外側に、もう一つの世界を置く」書き方をとっている。一方はVRゲームの中のゾンビ、もう一方は江戸の幻想的な描写である。芥川賞と直木賞を、現代の純文学と時代小説という型どおりに分けただけでは、この二作の共通点は見えにくいと考えられる。
もう一つ目立つのは、3回目の候補での受賞が両賞にそろった点である。1回の選考で決まる賞ではなく、候補に何度も挙がる間に作風が選考委員に知られ、決選投票で支持を集める面があると考えられる。ただし、これは今回の結果から推測したことで、選考の内部事情を確かめたわけではない。
『青天』の扱いは、タレントの初小説が賞の話題をさらうことと、作品を作品として読むことの距離を示している。辻村の講評が文章の質を具体的に挙げたことは、後者に寄った評価だったと考えられる。
ジージへの問いかけ
・ゾンビとVRゲームを使った小説は、ジージには純文学として読めそうでしょうか。それとも別のものに感じるでしょうか。
・65歳で直木賞を受けた朝倉かすみのように、遅く認められる書き手がいることを、ジージはどう思いますか。
・テレビで知られた人の初小説が賞の候補になることは、文学賞にとってよいことでしょうか。
出典
・ウィキペディア「芥川龍之介賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/芥川龍之介賞
・ウィキペディア「直木三十五賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/直木三十五賞
・公募ガイド「文芸公募ニュース 7.16更新」 https://koubo.jp/article/98244
・熊本日日新聞(共同通信)「芥川賞に小砂川チトさん 直木賞は朝倉かすみさん」 https://kumanichi.com/articles/2014008
・北海道新聞「第175回芥川賞・直木賞」 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1340620/
・秋田魁新報「オードリー若林さん直木賞逃す 選考委員『身体性を伴う文章が魅力』」 https://www.sakigake.jp/news/article/20260715EN0003/
・文藝春秋「第175回芥川賞選評」(会員向け・本文は未確認) https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h12586
・本の話(文藝春秋)「第175回芥川賞の候補作決定」(2026年6月11日) https://books.bunshun.jp/articles/-/11012
動画
・【芥川賞】小砂川チトさん「太宰の墓前に自慢しに行こうかな」 『ゾンビ回収婦』で芥川賞(2026年7月15日)(THE PAGE(ザ・ページ))https://www.youtube.com/watch?v=tptE6nENR0s
・「本当だ 私は受賞者なんだなと思った」第175回直木賞受賞の朝倉かすみさんインタビュー(HBCニュース 北海道放送)https://www.youtube.com/watch?v=CAUCjx0T2Ss
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