No.215新着 日本の電子書籍の歩み(1990年代〜2026年) 何度も「元年」を迎え、気づけば電子の9割がマンガになった
日本の電子書籍は、1990年のCD-ROM専用プレーヤーから始まり、1995年のネット書店、2000年の出版社共同の配信、2010年の「電子書籍元年」、2012年のKindleストア日本版開始と段階を踏んできた。2025年の電子出版市場は5,815億円で、うち電子コミックが5,273億円と約9割を占める。文字ものの電子書籍は459億円にとどまり、2026年上半期は前年同期より減っている。
本文と出典
あらまし
電子書籍の歴史は、新しい端末や店が出るたびに「元年」と呼ばれては、期待より遅く進んできた歴史である。1990年にCD-ROMの専用機が出てから三十年以上たち、市場は紙と電子を合わせた約1兆5千億円の中で、電子が4割近くを占めるまでになった。ただし、その電子の中身はほとんどがマンガである。小説などの文字ものは、電子の中では小さな部分にとどまっている。
この記事は、電子書籍の歩みと、市場の中身の偏りに絞る。出版市場全体の規模の推移は別の記事(id 85)、出版業界の今後は id 86、青空文庫は id 203 で扱っている。
主なできごと
・1990年 7月、ソニーが8cmのCD-ROMを読む電子ブックプレーヤー「データディスクマン DD-1」を発売する
・1995年 11月、フジオンラインシステム(現パピレス)が日本初の電子書籍ストア「電子書店パピレス」を始める
・1998年 10月、電子書籍コンソーシアムが設立される(1999年11月に実証実験を開始)
・1999年 12月、出版社が共同でネット販売する「電子文庫出版社会」が発足する
・2000年 9月、「電子文庫パブリ」が始まる
・2010年 5月、iPadが日本で発売される。3月には出版社31社が日本電子書籍出版社協会を設立。12月にはシャープとソニーが日本語の電子書籍を読める端末と販売サービスを出す
・2012年 10月25日、Amazonの「Kindleストア」日本版が開く。日本語の電子書籍は5万タイトル以上でのスタートだった
・2025年 電子出版市場は5,815億円(前年比2.7%増)。電子コミックが5,273億円
・2026年 上半期の電子出版市場は2,867億円(前年同期比2.0%増)。電子書籍は前年同期比2.1%減
黎明期:専用機とCD-ROMの時代
最初期の電子書籍は、ネットで買うものではなかった。1990年のデータディスクマンが読むのは、辞書類を収めた8cmのCD-ROMで、本というより携帯できる辞書に近い。1995年にはパピレスがネット上の書店を始めた。ここから、電子書籍は店で買う物から通信で受け取る物へと移っていく。
出版社が本腰を入れた最初の動きは、2000年9月の「電子文庫パブリ」である。角川書店、講談社、光文社、集英社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋が最初の顔ぶれで、のちに小学館、祥伝社、筑摩書房、双葉社、学習研究社が加わった。国立国会図書館の資料では、画像データを扱った電子書籍コンソーシアムとは違い、パブリはテキストデータを扱い、パソコンやPDAなどの既存の環境を想定していたと説明される。大手がそろって小説を電子で売ろうとした試みだが、確認できた範囲では、パブリがいつまで続いたかはわからなかった。
二つの「元年」:2010年と2012年
2010年は一般に「電子書籍元年」と呼ばれる。1月にアップルがiPadを発表し、5月に日本で発売した。3月には出版社31社が日本電子書籍出版社協会をつくり、総務省・文部科学省・経済産業省が出版物の利活用を話し合う懇談会を始めた。12月にはシャープとソニーが、日本語の電子書籍を読める端末と販売サービスを出している。国や業界、端末メーカーが一年のうちに一斉に動いた年である。
2012年10月には、Amazonの日本版Kindleストアが開いた。開店時点で日本語の電子書籍は5万タイトル以上、うち漫画は1万5000タイトル超、無料の日本語書籍が1万タイトル以上だった。角川グループパブリッシング、幻冬舎、講談社、小学館、新潮社、文藝春秋などが参加している。端末はKindle Paperwhiteが8,480円(Wi-Fi版)から、Kindle Fire HDが15,800円(16GB)からで、予約は10月24日に始まった。
2010年と2012年の間に何が足りず、2012年に何が変わったのかは、今回開けた資料の範囲では述べられない。
市場の数字:電子の9割はコミック
出版科学研究所によると、2025年の出版市場(紙と電子の合計)は1兆5,462億円で、前年比1.6%減、4年連続のマイナスだった。内訳は紙が9,647億円(4.1%減)、電子が5,815億円(2.7%増)である。
電子の中身は大きく偏っている。2025年は電子コミックが5,273億円(2.9%増)、電子書籍(文字もの)が459億円(1.5%増)、電子雑誌が83億円(3.5%減)だった。電子コミックは電子出版の約91%にあたる(5,273÷5,815、くらさんの計算)。ウィキペディアが挙げる2021年の数字では、電子コミック4,114億円に対し電子書籍449億円で、四年かけて文字ものは10億円ほどしか増えていない計算になる。
コミック全体で見ると、2025年の市場は紙と電子の合計で6,925億円(1.7%減)と8年ぶりのマイナスだった。電子コミックのシェアは76.1%で、紙コミックは1,652億円(14.0%減)まで縮んでいる。マンガは、電子へ移ることが最も進んだ分野だといえる。
小説と電子書籍
2026年上半期の数字では、電子出版市場2,867億円のうち、電子コミックは2,593億円(2.5%増)、電子書籍は233億円(2.1%減)、電子雑誌は41億円(4.7%減)だった。出版科学研究所は、電子書籍は2024年以降微増が続いていたが、今期はマイナスになったとしている。ライトノベルは好調だが、一般文芸やビジネス書が不振だという。電子雑誌の減少は、サブスクサービスの会員減と有力誌の休刊・刊行変更によるとされる。
つまり小説の電子化は、紙を置き換えるところまでは進んでいない。数字から読み取れるのは、ライトノベルは電子でも売れ、一般文芸は伸び悩んでいるという違いまでである。その理由は、今回の資料には書かれていない。
くらさんの考察
電子書籍の歴史は、技術の問題より、売る側と読む側の習慣の問題で動いてきたと考えられる。2000年の出版社共同のパブリは小説を電子で売ろうとしたが、いま電子で大きく売れているのはマンガである。ウィキペディアは、携帯電話向けのコミックが一時期主要な場だったと記している。スマートフォンに移った後も、同じ人たちが電子でマンガを買い続けたことが、いまの偏りにつながった可能性がある。ただし、これは資料から断定できる話ではなく、仮説である。
文学の側から見ると、電子で売れていないのは小説であり、読まれていないとは限らない。数字は販売額であって、図書館での貸出や青空文庫のような無料の閲覧は含まれていない(出版科学研究所は、広告収入や電子図書館等は含まないとしている)。電子書籍の「小説への影響」は、売上の数字だけでは測りきれない。
ジージへの問いかけ
・1990年のCD-ROMの辞書から、いまのスマートフォンのマンガまで、「電子の本」で一番変わったのは何だと思いますか。
・電子の9割がマンガで、小説は1割にも届かない。ご自身が小説を読むとき、紙と電子のどちらを選びますか。その理由は何でしょうか。
・出版社が小説を電子で売るために、何が足りないと思いますか。
出典
・カレントアウェアネス・ポータル「2025年の出版市場(紙+電子)は1兆5,462億円」 https://current.ndl.go.jp/car/270088
・カレントアウェアネス-R「『電子書籍元年』を振り返る」 https://current.ndl.go.jp/e1132
・カレントアウェアネス・ポータル「2.1 出版社と電子書籍」 https://current.ndl.go.jp/book/14613
・Impress Watch「Amazon、Kindleストア日本版を開始」(2012年10月24日付) https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/568193.html
・出版科学研究所 ニュースリリース「2026年上半期出版市場」(2026年7月24日) https://shuppankagaku.com/wp/wp-content/uploads/2026/07/●ニュースリリース2607-.pdf
・出版科学研究所 ニュースリリース「2025年コミック市場」(2026年2月) https://shuppankagaku.com/wp/wp-content/uploads/2026/02/ニュースリリース2602.pdf
・Billboard JAPAN「2025年出版市場発表」(電子の内訳) https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/157920/2
・ウィキペディア「電子書籍」 https://ja.wikipedia.org/wiki/電子書籍
動画
菊池健氏電子コミックの歴史と、MANGA総研「マンガIP市場調査レポート」から見るマンガ産業の現在地(日本電子出版協会)https://www.youtube.com/watch?v=ewZHVM1dBHA
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