ジージとくらさんの文学談義2026年10月25日
文学しらべ
問いを重ねて、日本文学を読む

← 文学賞一覧へ戻る

No.208新着 江戸川乱歩賞(1954年〜) 原稿を送って選ばれるミステリーの新人賞

江戸川乱歩賞は、1954年に乱歩が日本探偵作家クラブ(現在の日本推理作家協会)へ寄付した100万円を基金に設けられた賞である。最初の2回は功労賞だったが、1957年の第3回から未発表の長編推理小説を募る新人賞になり、受賞作は講談社から本になる。新聞や雑誌に載った作品から選ぶ芥川賞とは、新人の見つけ方がまったく違う。

𝕏 でポストする

登録日時
2026年10月25日 17:07
出典を確かめた日
2026年10月25日
分野
文学賞
立場
くらさんの考察
タグ
文学賞新着ミステリー・娯楽新着作家新着出版社新着
作家・作品
江戸川乱歩、仁木悦子、西村京太郎、東野圭吾、桐野夏生、池井戸潤
資料の種類
事典・概説
年代
1954年〜現在

本文と出典

あらまし

江戸川乱歩賞は、推理小説の書き手を公募で選ぶ新人賞である。1954年、乱歩が日本探偵作家クラブ(現在の日本推理作家協会)に寄付した100万円を基金にして設けられた。最初の2回は探偵小説の分野で功績のあった人や出版社に贈られたが、1957年の第3回から未発表の長編を募る形に変わった。受賞作は講談社から本になり、フジテレビが映像化を検討する。仁木悦子、西村京太郎、東野圭吾、桐野夏生、池井戸潤らがこの賞から世に出た。

主なできごと

・1954年 乱歩が日本探偵作家クラブに100万円を寄付し、賞が設けられる
・1955年 第1回。中島河太郎『探偵小説辞典』に贈られる
・1956年 第2回。早川書房の「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」の刊行に贈られる
・1957年 第3回から長編の公募になる。応募96編から仁木悦子『猫は知っていた』が選ばれる
・1960年 第6回は受賞作なし
・1963年 第9回から日本推理作家協会の主催になる
・1965年 第11回、西村京太郎『天使の傷痕』
・1985年 第31回、東野圭吾『放課後』(森雅裕『モーツァルトは子守唄を歌わない』と同時受賞)
・1992年 第38回からフジテレビが後援し、受賞作をドラマや映画にするようになる
・1993年 第39回、桐野夏生『顔に降りかかる雨』
・1998年 第44回、池井戸潤『果つる底なき』(福井晴敏『Twelve Y.O.』と同時受賞)
・2017年 第63回は受賞作なし
・2022年 第68回から副賞の賞金が1,000万円から500万円になる
・2025年 第71回、野宮有『殺し屋の営業術』
・2026年 第72回、箕輪尊文『弾丸とヒマワリ』。応募は465編

功労賞から公募の新人賞へ

乱歩は1894年生まれで、1954年に60歳を迎えた。公募ガイドの「文芸公募百年史」は、この賞を乱歩が自分の還暦祝いに基金を出して創ったもので、当初はミステリー作家の功労賞だったと説明している。第1回の中島河太郎は探偵小説の研究者で、受賞対象は辞典である。第2回は作家ではなく、海外ミステリーを翻訳して出す早川書房の叢書に贈られた。
第3回で、賞は新人の発掘に目的を切り替えた。最初の受賞者の仁木悦子は、4歳で胸椎カリエスにかかって両足がまひし、歩けなかった。『猫は知っていた』は初め河出書房の公募に送られたが、同社の経営難で刊行が止まり、乱歩賞へ回されたという。受賞作はベストセラーになり、選考にあたった乱歩の選評がきっかけで、仁木は「日本のクリスティー」と呼ばれるようになった。

応募の決まりと賞金

2027年1月末締切の第73回の募集では、応募資格は問わない。対象は「広い意味の推理小説で、自作未発表のもの」で、長さは400字詰め原稿用紙に直して350〜550枚。郵送のほか、ウェブの投稿フォームでも送れる。正賞は江戸川乱歩像(第48回まではシャーロック・ホームズ像だった)、副賞は賞金500万円で、受賞作が2作なら分ける。さらに講談社が出す受賞作の印税が全額、受賞者に入る。出版権は3年間講談社にあり、映像化の権利はフジテレビなどが期限つきで持つ。
賞金は第67回まで1,000万円だったが、第68回から半分になった。それでも、応募は第68回の385編から第72回の465編へ増えている。

受賞から先の歩み

受賞者のなかには、のちに直木賞を受けた人が何人もいる。東野圭吾は会社員として技術職に就いていた1985年に『放課後』で受賞し、2006年に『容疑者Xの献身』で直木賞を受けた。桐野夏生は1993年の受賞から6年後の1999年に『柔らかな頬』で、池井戸潤は銀行を辞めたあとの1998年に受賞し、2011年に『下町ロケット』で直木賞を受けている。西村京太郎は1965年の受賞のあと、1978年の『寝台特急殺人事件』から鉄道を舞台にしたミステリーに移って広く読まれた。
最近の回では、2024年の第70回が霜月流『遊廓島心中譚』と日野瑛太郎『フェイク・マッスル』の2作受賞だった。2025年の第71回の野宮有『殺し屋の営業術』は、腕利きの営業マンが殺し屋の会社で売上のノルマに挑む話で、乱歩賞の受賞作として初めて本屋大賞にノミネートされたと出版元のプレスリリースが伝えている。野宮は、2018年に第25回電撃小説大賞の選考委員奨励賞を受けてすでに作家デビューしていた。2026年5月に決まった第72回の箕輪尊文は1993年生まれで、受賞作は応募時の題「天使の負託 エンジェル・バレット」を改め、9月に刊行された。

公募の新人賞と、発表済みの作品に贈る賞

同じ「新人賞」でも、乱歩賞と芥川賞では新人の見つけ方が違う。芥川賞は、新聞や雑誌(同人誌を含む)にすでに載った純文学の短編・中編から、無名か新進の作家の作品を選ぶ。作家が応募するのではなく、文藝春秋の社員による選考スタッフが候補を絞り、選考委員が決める。副賞は100万円である。
乱歩賞は、まだ世に出ていない原稿を書き手が自分で送る。受賞は本を出すこととひと続きで、賞金のほかに印税と講談社からの刊行がついてくる。芥川賞が「すでに雑誌に出た新人に光を当てる賞」なら、乱歩賞は「作家になる入口そのもの」にあたる。文芸誌の新人賞(群像新人文学賞など)も同じ公募型で、芥川賞の候補者の多くはそこを通ってくる。

くらさんの考察

乱歩賞の歩みを見ると、出版社が新人に払う「先行投資」の形がよく分かる。講談社は受賞作を出し、テレビ局は映像化を見込む。その代わり書き手は、無名のまま一冊目の本と読者を得る。東野圭吾や池井戸潤のように、勤めをしながら応募して作家になった例が続いたのは、この入口が原稿一本で開いていたからだと考えられる。
最近は、野宮有のようにライトノベルの賞ですでに出ていた書き手や、最終候補を何度も経た書き手が受賞している。乱歩賞は「まったくの素人が一発で出る賞」から、「書き続けてきた人が一般のミステリーへ移る関門」に性格を少しずつ変えていると考えられる。賞金が半分になっても応募が増えているのは、書き手が求めているのが賞金よりも刊行と読者だからだろう。

ジージへの問いかけ

・自分で原稿を送って選ばれる乱歩賞と、雑誌に載った作品から選ばれる芥川賞では、どちらが「新人賞」らしいと思いますか
・賞金が1,000万円から500万円に減っても応募が増えているのは、何がいちばん魅力だからでしょうか
・受賞作が必ずドラマや映画の候補になる仕組みは、作家にとって得だと思いますか

出典

・ウィキペディア「江戸川乱歩賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/江戸川乱歩賞
・ウィキペディア「江戸川乱歩」 https://ja.wikipedia.org/wiki/江戸川乱歩
・imidas「江戸川乱歩賞」 https://imidas.jp/bungaku/detail/101.html
・公募ガイド「文芸公募百年史 VOL.22 乱歩賞、女流新人賞、群像新人文学賞」 https://koubo.jp/article/38513
・公募ガイド「第73回江戸川乱歩賞」募集要項 https://koubo.jp/contest/289611
・公募ガイド「歴代受賞者 江戸川乱歩賞」 https://koubo.jp/article/26326
・熊本日日新聞(共同通信)「江戸川乱歩賞に箕輪さん 『天使の負託』で」2026年5月20日 https://kumanichi.com/articles/1993133
・公募ガイド(PR TIMES)「乱歩賞史上初、本屋大賞ノミネート! 『殺し屋の営業術』12万部突破」2026年2月6日 https://koubo.jp/press-release/prtimes/c1719_r8106
・ウィキペディア「仁木悦子」 https://ja.wikipedia.org/wiki/仁木悦子
・ウィキペディア「西村京太郎」 https://ja.wikipedia.org/wiki/西村京太郎
・ウィキペディア「東野圭吾」 https://ja.wikipedia.org/wiki/東野圭吾
・ウィキペディア「桐野夏生」 https://ja.wikipedia.org/wiki/桐野夏生
・ウィキペディア「池井戸潤」 https://ja.wikipedia.org/wiki/池井戸潤
・ウィキペディア「芥川龍之介賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/芥川龍之介賞

動画

・第72回江戸川乱歩賞記者発表会(日本推理作家協会広報)https://www.youtube.com/watch?v=_ahxnAYQgFU

関連動画

この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが文学QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。