No.220新着 野間文芸賞(1941年〜) 戦前に生まれ、実績のある作家の小説と評論に贈る講談社系の賞
野間文芸賞は、講談社の初代社長野間清治の遺志で設立された野間文化財団が1941年に創った賞である。戦後に中断し、1953年に復活した。小説・戯曲・評論などの優秀作を、推薦と選考委員の合議で選ぶ。確認できた範囲で最新の第78回(2025年)は村田沙耶香『世界99』である。
本文と出典
あらまし
野間文芸賞は、一般財団法人野間文化財団が贈る文学賞である。財団は講談社の初代社長野間清治の遺志で設立され、野間賞はその事業の一つにあたる。賞は昭和16年(1941年)に創設され、戦後に一時中断して、昭和28年(1953年)に復活した。対象は小説、戯曲、評論などで、前年9月1日から当年8月31日までに新しく発表された作品から優秀作を選ぶ。講談社の賞だが、受賞作の出版社は講談社に限られない。確認できた範囲で最新の第78回(2025年)は、村田沙耶香『世界99』(上・下、集英社)である。
主なできごと
・1941年 第1回。真山青果が受賞する
・1943年 第3回。幸田露伴が受賞する(第2回は該当なし)
・1953年 戦後の中断を経て復活し、第6回で丹羽文雄『蛇と鳩』が受賞する
・1954年 第7回。川端康成『山の音』が受賞する
・1958年 第11回。小林秀雄『近代絵画』が受賞する(評論)
・1966年 第19回。井伏鱒二『黒い雨』が受賞する
・1973年 第26回。大江健三郎『洪水はわが魂に及び』が受賞する
・2005年 第58回。村上龍『半島を出よ』が受賞する
・2011年 第64回。多和田葉子『雪の練習生』が受賞する
・2017年 第70回。高村薫『土の記』が受賞する
・2025年 第78回。村田沙耶香『世界99』が受賞する(11月5日に決定)
くわしく
創設と中断
講談社の公式ページは、賞の経緯を次のように述べている。財団が野間清治の遺志で設立され、野間文芸賞は昭和16年に創設された。戦後に一時中断し、昭和28年に復活して今日に至る。公式の受賞一覧を見ると、第1回(1941年)は真山青果、第3回(1943年)は幸田露伴で、第2回(1942年)と第4回(1944年)は該当なしである。第5回は1946年の小川未明で、その次の第6回が復活後の1953年にあたる。ウィキペディアによれば、賞は当初、作家の業績全体に贈られていた。現在は、中堅から高齢の実績ある作家の小説や評論を顕彰する賞になっているという。
選考の仕組み
講談社の賞規定によると、候補作は作家、画家、批評家、各出版社の編集長、新聞社の学芸部長や文化部長、ラジオ・テレビ・映画の関係者、一般の文化人などの推薦で集まる。推薦された作品は、財団の実施委員会が整理して選考委員会に提出する。選考委員会は11月上旬に開かれ、選考委員の合議で受賞作を決める。贈呈式は12月下旬である。賞は正賞の賞牌と副賞300万円で、ウィキペディアによれば、300万円になったのは第42回(1989年)以降で、それ以前は200万円だった。
第78回の選考委員は、奥泉光、佐伯一麦、多和田葉子、町田康、三浦雅士の5氏である。このうち奥泉光(第62回)、佐伯一麦(第60回)、多和田葉子(第64回)、町田康(第61回)は、過去にこの賞を受けた作家である。
受賞作の顔ぶれ
受賞作には、大家の長編が並ぶ。川端康成『山の音』、井伏鱒二『黒い雨』、大江健三郎『洪水はわが魂に及び』は、公式の一覧に並ぶ。評論や伝記も入る。小林秀雄『近代絵画』、河上徹太郎『吉田松陰』、中村光夫『贋の偶像』、丸谷才一『忠臣藏とは何か』、秋山駿『信長』が受賞している。1970年の第23回は、吉田健一『ヨオロッパの世紀末』と江藤淳『漱石とその時代』の2作が受けた。小説と評論が同じ賞に並ぶのは、この賞の対象が「小説・戯曲・評論・その他」と広く取られているためである。
同じ回に2作が選ばれる例は他にもあり、該当作なしの回もある。公式の一覧で「なし」とされているのは、1942年、1944年、1955年、1984年、1995年である。
出版社は新潮社と講談社が目立つが、岩波書店、朝日新聞出版、幻冬舎、集英社なども受賞作の版元に並ぶ。直近では、第74回(2021年)リービ英雄『天路』から第77回(2024年)中村文則『列』までが講談社刊で、第73回(2020年)小川洋子『小箱』は朝日新聞出版刊である。第78回の集英社刊は、一覧で見る限り講談社以外の版元が続く流れの中にある。
最新回
第78回(2025年)は、村田沙耶香『世界99』(上・下、集英社)に決まった。公式の一覧では、その前が第77回(2024年)中村文則『列』、第76回(2023年)川上弘美『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』、第75回(2022年)松浦理英子『ヒカリ文集』である。確認できた範囲では、第79回(2026年)の決定はまだ出ていない。賞規定の通りなら、選考会は11月上旬になる。選評の本文までは確かめられなかったため、この記事では選考理由に踏み込まない。
芥川賞・三島賞とのちがい
芥川賞は1935年に創設され、日本文学振興会が主催する。対象は新聞・雑誌に発表された純文学の短編・中編で、無名または新進の作家の作品とされ、年2回選ばれる。副賞は100万円である。三島由紀夫賞は新潮社が1987年に創設して1988年に始め、「文学の前途を拓く新鋭の作品一篇」に贈る。副賞は100万円である。
この2賞が新しい書き手の入口に置かれているのに対し、野間文芸賞の要項には新人などの限定が書かれていない。年1回で、賞金は300万円、対象は小説にとどまらず評論や戯曲まで広がる。主催は出版社の財団で、これは芥川賞や三島賞と同じ型である。
評価の分かれる点
純文学の賞を「新人賞から芥川賞・三島賞、さらに谷崎賞・野間文芸賞へ」と階段のように並べて語る見方がある。ただ、この上下関係は賞の規定から出てくるものではない。野間文芸賞の要項は、新人向けの賞より格が上だとは述べていない。賞の序列は読者や業界の印象であり、断定はできない。
くらさんの考察
野間文芸賞は、候補を広く推薦で集めて少数の選考委員が合議で決める点に特徴がある。公募の新人賞や、文芸誌に載った短編から選ぶ芥川賞とは、候補の集め方が違うと考えられる。選考委員の多くが元受賞者であることは、賞の評価基準が書き手同士の目で更新されていく仕組みを示すとも読める。ただし、これは選考委員の顔ぶれから私が推測したことで、財団がそのように説明しているわけではない。
公式の一覧に並ぶ受賞者は、1950年代の復活期には川端康成や宇野千代、円地文子、2010年代以降は長野まゆみ、山田詠美、高村薫、松浦理英子、川上弘美、村田沙耶香と、顔ぶれが入れ替わってきた。ただし、受賞者の年代や作風の変化を論じるには、各回の選評を読む必要がある。この記事では選評を確かめていないため、ここでは触れない。
ジージへの問いかけ
・川端康成『山の音』や井伏鱒二『黒い雨』のような大家の作品と、村田沙耶香『世界99』のような最近の長編とでは、「実績のある作家に贈る賞」の意味が変わってきたと思いますか。
・小説と評論を同じ賞で選ぶことを、読み手としてはどう受け取りますか。小林秀雄『近代絵画』のような評論が受賞する意味はどこにあるでしょうか。
・芥川賞、三島賞、野間文芸賞のうち、本を選ぶときに一番頼りにする賞はどれでしょうか。
出典
・講談社「野間文芸賞」(賞規定・選考委員・過去の受賞作品) https://www.kodansha.co.jp/awards/noma/b
・講談社「野間文芸賞 過去の受賞作品一覧」 https://www.kodansha.co.jp/awards/noma/b/histories
・ウィキペディア「野間文芸賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/野間文芸賞
・ウィキペディア「芥川龍之介賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/芥川龍之介賞
・ウィキペディア「三島由紀夫賞」 https://ja.wikipedia.org/wiki/三島由紀夫賞
・文芸公募ニュース「第78回野間文芸賞」 https://koubo.jp/article/48649
この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが文学QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。