No.209新着 神田神保町の古書店街(明治〜現在) 学生の教科書売り場から専門店の集まる本の街へ
神保町の古書店街は、明治10年代に周りへ法律学校や大学ができ、学生向けに法律書や教科書の古本を扱う店が開いたことに始まる。大火と関東大震災で焼けては立ち直り、太平洋戦争の空襲では靖国通り沿いの店並みが焼け残ったとされる。いまは約130店が分野ごとの専門店として並び、ネットの「日本の古本屋」と、毎年秋の神田古本まつりが店を支えている。
本文と出典
あらまし
東京都千代田区の神田神保町には、靖国通りの駿河台下交差点から西へ、およそ130店の古書店が並ぶ。古書店のほかに新刊書店、出版社、印刷所、大学が集まり、「世界最大の古書店街」と呼ばれることもある。始まりは明治の学生街で、古本屋は教科書の売り買いの場として育った。その後、火事と震災と戦争をくぐり、戦後は店ごとに扱う分野を絞る専門店の街に変わった。
主なできごと
・1877年 東京大学の前身が神田一ツ橋に置かれ、周りに学校が集まり始める。同じ年に有斐閣が創業する
・1880年代 明治法律学校(明治大学)、英吉利法律学校(中央大学)、専修学校(専修大学)などが相次いでできる
・1881年 亀井忠一と母の万喜子が三省堂を古書店として開く
・1913年 神田三崎町の大火で神保町が大きな被害を受ける。同じ年、岩波茂雄が神田に古書店を開く
・1914年 岩波書店が夏目漱石『こゝろ』を出し、出版に乗り出す
・1920年 東京古書籍商組合(いまの東京都古書籍商業協同組合)ができる
・1923年 関東大震災で神田の一帯が焼ける
・1945年ごろ 空襲で神保町は大きな被害を受けるが、靖国通り沿いの古書店街は焼け残ったとされる
・1960年 「古本まつり青空掘り出し市」が開かれ、いまの神田古本まつりの起点とされる
・1996年 古書組合がインターネットの「日本の古本屋」を立ち上げる
・2022年 三省堂書店神保町本店が全面改築のため5月8日に閉店。10月には神田古本まつりが3年ぶりに開かれる
・2026年 3月19日、三省堂書店神田神保町本店が新しいビルで開店。10月23日から11月1日まで第66回神田古本まつり
学生街の古本屋として始まる
神保町に本屋が集まったのは、明治の学校の集まり方による。1877年に東京大学の前身が一ツ橋に置かれ、1880年代には明治法律学校、英吉利法律学校、専修学校などが近くに次々とできた。店主たちはこの学生を当てにして、法律書の本屋や古本屋を開いた。年度が替わると上級生が使い終えた教科書を売り、下級生がそれを買いに来る。この売り買いが毎年くり返されたことで、古本屋が根を下ろした。教科書や洋書の需要は新刊にも及び、1877年の有斐閣、1881年の三省堂と、のちの大きな出版社や書店もこの町で始まった。三省堂は、もとは古書店として開いた店である。文学散歩の書き手として知られる野田宇太郎も、神田の古書街は明治の学校とともに始まったと書いた。
岩波書店は古書店として出発した
1913年、神田三崎町の大火が神保町を焼いた。焼けた大学などが図書館の本をそろえ直そうとして古書の需要が高まり、同じ年、女学校の教師だった岩波茂雄が神田に古書店を開いた。当時の古本屋は客と値段を掛け合うのが普通だったが、岩波は値札どおりに売る正札販売を通し、信用を得たとされる。翌1914年には夏目漱石の『こゝろ』を出し、出版に乗り出した。古書店の町が、そのまま文学の出版社を生んだ例である。
震災と戦災をどうくぐったか
1923年の関東大震災で、神田区は大半が焼けた。店主たちは狭い土地に火に強い建物を建てるため、鉄筋コンクリートの長屋の形の共同店舗を造り、1931年ごろには町並みが戻っている。nippon.com の記事は、全国から古本の在庫を集められたことで震災後に業界が伸びたと記す。
太平洋戦争では、神保町も空襲で大きな被害を受けたが、靖国通り沿いの古書店街は焼け残ったとされる。理由には二つの見方がある。一つは、米軍が貴重な古書を守るために爆撃を避けたという説で、司馬遼太郎は『街道をゆく』で、エリセーエフ教授がマッカーサーに進言したといわれる、と書いた。ただ、この話の真偽ははっきりしていない。もう一つは、学芸員の長谷川怜が推測するように、靖国通り、皇居、日本橋川が火の広がりを止め、風向きも幸いしたという見方である。
北向きの店並びと専門店化
古書店の多くは靖国通りの南側に建ち、北を向いている。店先の本に日が当たって焼けるのを防ぐためだと説明されることが多く、千代田区観光協会のサイトも「なのだとか」と伝聞の形で紹介している。
戦後は新制大学が200近くでき、古書の需要がさらに増えた。高度経済成長期の終わりごろから、各店は扱う分野を絞り始める。同じ町に同業者が百数十軒も並べば、何でも置く店では客を取り合うだけになるからだ。いまは文学、哲学、演劇、映画、美術、和本と浮世絵、洋書、武道、料理など、一つの分野に詳しい店が並ぶ。創業1918年の矢口書店は映画や演劇の本、大屋書房は江戸の和本や古地図を専門にしている。
ネットの古本屋と古本まつり
1996年、古書組合はインターネットの「日本の古本屋」を始めた。2026年10月に確かめた時点で、全国約1,000店が約700万冊を出品している。コロナ禍で店が休業を求められたときも、このサイト経由の注文は伸びた。店に来る客だけに頼らず、目録やネットで全国の個人や大学図書館に売る形が、いまの古書店の柱の一つになっている。
神田古本まつりは、1960年に客足を取り戻そうと開いた「古本まつり青空掘り出し市」に始まるとされる。2026年の第66回は10月23日から11月1日まで、神田古書店連盟の主催で開かれ、靖国通りに100台を超えるワゴンが並ぶ約500メートルの「本の回廊」ができた。岩波神保町ビルの工事のため、会場の一部は例年と違う。
新刊書店にも動きがあった。三省堂書店神保町本店は全面改築のため2022年5月8日に閉店し、神田小川町の仮店舗で営業を続けた。2026年3月19日、地上13階建てのビルの1〜4階に「三省堂書店神田神保町本店」として戻り、開店前に約800人が並んだ。売り場の広さは旧店舗の6割ほどに縮んでいる。
評価の分かれる点
空襲で古書店街が残った理由は、米軍が意図して避けたという言い伝えと、地形や風向きによる偶然という見方のどちらも確証がない。店の数も数え方で変わり、130軒とする記事が多い一方で、180軒や400軒とする記事もある。古書店だけを数えるか、新刊書店や周りの町まで含めるかで差が出ると考えられる。
くらさんの考察
神保町が古書の町であり続けた理由は、一つではないと考えられる。学校が近くにあって教科書の売り手と買い手が毎年入れ替わったこと、焼けるたびに大学図書館の買い直しという需要が生まれたこと、店が多すぎたために専門店へ分かれたことが、それぞれ別の時期に効いている。とくに専門店化は、ネット販売との相性がよかった。分野を絞って深く集めた在庫は、近所の客より全国の探している人に向いているからだ。一方で、ネットで本が買えるなら町に来る理由は薄れる。古本まつりや新しい三省堂のように、歩いて棚を見て回ること自体を楽しみとして売り出す動きは、その穴を埋めようとする工夫と考えられる。
ジージへの問いかけ
・米軍が古書を守るために神保町を避けたという話を、ジージは信じたいと思いますか、それとも出来すぎた話だと思いますか。
・本をネットで探せるいまも、神保町を歩いて棚を眺める楽しみは残ると思いますか。
・ジージが学生のころ、古本屋で教科書や本を売り買いした思い出はあるでしょうか。
出典
・ウィキペディア「神田古書店街」 https://ja.wikipedia.org/wiki/神田古書店街
・ウィキペディア「三省堂書店」 https://ja.wikipedia.org/wiki/三省堂書店
・nippon.com「明治維新からネット社会へ―古書の街・神保町はどう生き残ってきたのか」(2024-05-07) https://www.nippon.com/ja/japan-topics/b11002/
・このまちアーカイブス「神田」(三井住友トラスト不動産) https://smtrc.jp/town-archives/city/kanda/p07.html
・Visit Chiyoda(千代田区観光協会)「神保町古書店街」 https://visit-chiyoda.tokyo/app/spot/detail/50
・Visit Chiyoda「第66回東京名物 神田古本まつり」 https://visit-chiyoda.tokyo/app/event/detail/957
・さんたつ by 散歩の達人(2024-10-22) https://san-tatsu.jp/news/351972/
・日本の古本屋(東京都古書籍商業協同組合) https://www.kosho.or.jp/
・BOOK TOWN じんぼう(神田古書店連盟協力) https://jimbou.info/about/
・Impress Watch(2025-12-02) https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2068101.html
・AdverTimes.「ついに“しおり”が外れた 三省堂書店神田神保町本店が約4年ぶりに復活、浅田次郎・北方謙三も祝福」(2026-03-19) https://www.advertimes.com/?p=537712
・日経BOOKPLUS「三省堂書店 神田神保町本店 ついつい店内を回りたくなる新しい“仕掛け”」(2026-04-10) https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/051900070/040300066/
動画
・千代田ふしぎ発見! 神田神保町古書店街探訪(千代田区公式YouTubeチャンネル)https://www.youtube.com/watch?v=CNJ8vSQb2QM
・“本の街”神保町に…多くの外国人観光客 お目当ては「洋書」 古本屋街の魅力を調査【ワイド!スクランブル】(2024年11月12日)(ANNnewsCH)https://www.youtube.com/watch?v=hN5N-CMFJ5o
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